
私の現在の治療に対する考え方の礎には勤務医時代の経験があります。
訪問歯科診療の担当になり、病院、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、在宅療養者宅などで診療に従事しておりました。
ご高齢の方や寝たきり、アルツハイマー症、認知症、小児麻痺など、歯科医院でのみ治療していてはあまり関わりが持てない方の診療をさせていただく機会に恵まれました。その際の経験により得た事は、人生の終盤に於いては歯の重要性が格段に高まるという事でした。
食事、会話時の不具合だけでなく口の渇き、咳、嚥下困難、睡眠障害など、原因のひとつに歯の残存状態・本数、口腔衛生が関係していると考えられる悩みが多岐にわたっておりました。そのひとつひとつが患者さん本人にとっては大きな悩みであり、生活の質を下げる要因になっておりました。
歯の状態が悪く食べれないものがあったり、咬めないため刻み食やミキサー食になったり、入院中の義歯不具合により義歯を使わずに食事をせざるを得ない状態などがありました。そしてそれぞれ解決していくなかで口腔衛生の重要性、特に普段からの歯みがきの徹底と知識、健康な時からの予防の意識が重要であると思い至りました。
しかしながら将来に対して歯を守るために予防を行なうべき若い年代の方ほど予防の価値に気づいておられず、現時点で痛みがなければ治療しなくてよい、悪くなってから治せばよいという考え方の方が多く、大変危惧しております。
口腔衛生状態が悪ければ歯の成分が溶け出し、脆くなります。そうすると歯が欠けやすく、修復物の脱離や歯の破折の危険性が高まり、そこから予防を行なっても想定した効果は得にくくなります。早い段階、若い時からの予防が大切になるのです。